トントン
「あ、すまないね。夏季休暇なのに。散らかってるが適当なイスに・・・。あ、上に置いてる資料はここに置いといてくれ。ああ、そのレジュメはだめだ。まだ添削途中で・・・。そうすると、座るところがないな。まあ、立ったままで聞いてくれ。」
大山は話しを進めた。
「少し長くなるが聞いてくれ。本来は彼女にも来てもらいたかったのだよ。ほら・・・、長沢莉子くん・・・だったかな。
しかし、昨日から連絡が取れないのだよ。何か知ってるかな? そうか、何も知らないか。
さて、今日来てもらったのは他でもない。竹下くん。君は警察から取調べを受けたね?実は警視庁に少々こねがあってね。尾高文人くんの件で連絡がきたんだよ。うちの大学の学生が第一発見者だ、とね。そして、事情聴取は仕方のないことなのだよ。そう、遺体が現場でいかに不審な状況にあったとしても。ただ、そこで事情聴取されたとしても、今の警察には解決する能力はないと思うがね。
まだ、明示の時分。旧いものと新しいものがせめぎあいつつも、混ざり合おうとしていた時代なら別だがね。」
そして大山は頭を掻きながら言った。
「IT専門のぼくでもつねづね思うのだよ・・・。今の時代、不思議ごとが潜む闇も、ずいぶん薄まっているんだな、と。
そこで代わりに台頭してきたのが、近代フォークロア『都市伝説』なのだよ。都市伝説の定義というものはあいまいなのだが、旧来のそれと異なるのは、テレビやインターネットを通じて、広範囲かつ短時間で拡散するという点なのだよ。口から口へ語られる、という一点においては何の変容もないのだが、注目すべき点は、伝達手段の近代化なのだよ。
ここでぼくの持論―領域横断情報学なのだよにつながる訳だ。ああ、それじゃ君の体験を整理しよう。」
その間、数十分に及ぶ話し合いが行われた。
「なるほど、君が君のTS(ツイン スクリーン)に気付いたのは昨日。しかし、配信は二日前から尾高くんによって行われていた。事件現場でプレイ・・・、しかし、よくそんな状況でできたね。まあいいや、プレイするとそこでは尾高君らしき人がいけにえにされていた。そして、現実の尾高くんもゲームのいけにえ同様、水死していた。
要約すると、こんな感じだね。」
大山は天井を見ながら言った。
「ふー。君はぼくに質問したよね。今日の午前中。―ゲームで人が死ぬ可能性。それはある。
ぼくが、領域横断情報学で提唱している、マルチメディア論は、人間の精神もメディアの一つとして数えるのだよ。簡単に説明すると従来の文字、映像、音声などのメディア―情報伝達に使用される電気信号と人間の神経細胞の発する活動信号は等価で、物理的な接続を介さない相互の伝達―たとえば、無線LANも可能だと思ってるのだよ。
事実、今までも、新聞、携帯電話、メール、手紙、写真、ビデオテープ、DVD、違法電波、ノート。そういったものが介在する、変死事件の事例は枚挙にいとまがないのだよ。きみが知ろうと、知るまいに関わらずにね。
何が言いたいか分かる?
ああ、ようは携帯ゲーム機を介した、いわゆる『呪い』や『祟り』、一種の呪詛的な何かの伝播とそれによって引き起こされる、『死』はあり得るのだよ。
- 2009/07/22(水) 19:24:08|
- ナナシノゲーム:オリジナル小説「ナナシな人間」|
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